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11月8日 発表分

高橋宙大 東北大学大学院医学系研究科 分子代謝生理学分野  

 環境シグナル感知とエピゲノム機構による脂肪組織熱産生と抗肥満機構の解明

田中 祥朗 東京慈恵会医科大学 内科学講座 循環器内科

 URAT1は,心筋細胞に発現しメタボリックシンドローム下で飽和脂肪酸による心筋傷害を促進する

金口 翔 横浜市立大学附属病院 腎臓・高血圧内科  

 担癌患者における免疫チェックポイント阻害薬と高血圧リスクとの関連性

環境シグナル感知とエピゲノム機構による脂肪組織熱産生と抗肥満機構の解明

高橋宙大

東北大学大学院 医学系研究科 分子代謝生理学分野

生活様式の変化に伴い肥満を基盤とした 2 型糖尿病、脂質異常症、動脈硬化など生活習慣病が蔓延し、予防・治療法の開発が喫緊の課題である。脂肪細胞は代謝に重要な役割を担い、その生理機能の破綻が原因で生活習慣病を引き起こす機構が注目されている。脂肪組織には、主にエネルギー貯蔵を担い、熱産生能を持たない白色脂肪組織と、寒冷環境下で熱を産生する褐色やベージュ

脂肪細胞がある。ベージュ脂肪細胞は白色脂肪中に長期寒冷

下誘導される熱産生脂肪細胞で(図 1)後天的に誘導されるこ

とから肥満、生活習慣病の治療戦略として注目されている。
我々はヒストン脱メチル化酵素 JMJD1A が寒冷環境を自身の

リン酸化を介して感知し(第一段階)、後に熱産生遺伝子座の

転写抑制性ヒストン修飾を消去する(第二段階)連続したステップを介しベージュ化誘導することを報告してきた。しかし人為的に第一段階のリン酸化を活性化し第二段階のJMJD1A によるエピゲノム書き換えを誘導、ベージュ化を促進させることは困難であった。本研究では寒冷感知に重要な JMJD1A リン酸化に着目し、プロテオーム解析から JMJD1A リン酸化の負の調節因子として MYPT1(調節サブユニット)と PP1β(触媒サブユニット)脱リン酸化酵素複合体を特定した。この脱リン酸化酵素
の活性を阻害する寒冷誘導性リン酸化部位を特定し、リン酸

化による MYPT1 機能抑制がJMJD1A リン酸化の安定化を介

しエピゲノム書き換えを誘導、ベージュ化が促進することを
見出した。また脂肪組織特異的 MYPT1 欠損によりベージュ

化が誘導され、食事性肥満や糖代謝異常の改善が認められた。

加えて MYPT1-PP1β はミオシン軽鎖を脱リン酸化し YAP/TA

Z転写共役因子を介した転写活性化を抑制することを見出し、

寒冷刺激によるエピゲノム変化と転写共役因子を介した協奏

的な熱産生遺伝子活性化機構を解明した(Takahashi et al,.

NatCommun, 13(1):5715. 2022)。

URAT1は,心筋細胞に発現しメタボリックシンドローム下で飽和脂肪酸による心筋傷害を促進する.

田中 祥朗,名越 智古,吉村 道博

東京慈恵会医科大学 内科学講座 循環器内科

 

【背景】URAT1は主に腎臓の近位尿細管に発現し尿酸の再吸収を行う尿酸トランスポーターである.また,血管内皮細胞や脂肪細胞にも発現しており,メタボリックシンドローム(Mets)やインスリン抵抗性(IR)の際に活性化し慢性炎症や酸化ストレス(ROS)を惹起すると報告されている.我々は,最近Metsのモデルマウスを用いてURAT1がROSや慢性炎症を惹起して脂肪肝の増悪や褐色脂肪の白色化を介してMets,IRの増悪させる因子である事を報告した (Tanaka Y, Mol Metab 2022).しかし,MetsにおけるURAT1の心血管組織における存在や病態生理学的意義は不明な点が多い.

【手法】16-20週間,通常食又は高脂肪食(60 kcal%,脂肪)を与えたマウスに,更に4週間URAT1選択的阻害薬であるドチヌラド(50 mg/kg/day)を投与した.また,仔ラットの心筋培養細胞(NRCM)を用いてパルミチン酸(PA)で刺激した際のドチヌラドの効果及びsiURAT1を導入した際の変化を検討した.

【結果】マウスの心臓組織の心筋細胞,血管内皮細胞で腎臓の近位尿細管と同様にURAT1の発現が免疫組織化学染色で確認された.また,高脂肪食負荷で誘導された心臓組織の線維化(Masson Trichrome染色),心臓組織炎症性サイトカイン(TNFα, MCP1, IL-1β),心エコーによる左室駆出率低下がドチヌラド投与群で有意に改善が認められた.続いてURAT1のNRCMでの尿酸取り込み能と存在を確認するために,NRCMに高尿酸条件(5mg/dl, 15 mg/dl)に加えてドチヌラドを投与する事で1時間後のNRCMの尿酸取り込み量が有意に低下した.また,免疫蛍光染色(IF),ウエスタンブロットではNRCMでURAT1が発現しておりURAT1 siRNAの導入により対照群と比較してURAT1発現量の有意な低下が認められた.  次に,NRCM,血管内皮細胞(HUVEC),ラット心筋線維芽細胞をPAで24時間刺激するとNRCMに特異的にURAT1の発現がPA濃度依存的に増加した.更に,PA刺激によりNRCMでURAT1発現が上昇した結果,MAPK (mitogen-activated protein kinase)経路のリン酸化,Apoptosis signal(c-caspase 3,9, Bax),炎症性サイトカイン(TNFα, MCP1, IL-1β),キサンチンオキシダーゼ由来のROSが亢進していたがドチヌラド投与で有意に抑制された.一方で,PA刺激により誘導されるMAPK経路のリン酸化,apoptosisシグナルはURAT1 siRNAの導入により対照群と比較して有意な改善が認められた.

【結論】URAT1は心筋細胞に発現,尿酸トランスポーターとして機能している事が確認された.更に,PA刺激によりNRCM特異的にURAT1発現が上昇し,MAPK経路リン酸化を介してApoptosis,炎症性サイトカイン,ROSが誘導される事が示された.URAT1はMetsにおいて飽和脂肪酸による心筋傷害を促進し,URAT1選択的阻害薬はこれらを緩和する可能性がある事が示唆された.

担癌患者における免疫チェックポイント阻害薬と高血圧リスクとの関連性

金口翔1,峯岸慎太郎1,堀田 信之1,Ho Namkoong2,Alexandros Briasoulis3,石上 友章1,田村功一1,西山 成4, 矢野 裕一朗5

1横浜市立大学, 2慶應義塾大学, 3University of Iowa College of Medicine, 4香川大学,5滋賀医科大学

【背景】免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) は,革新的な癌治療薬として広く使用されるようになっている.その一方で,ICIの使用は免疫関連有害事象 (irAE) を引き起こす危険性がある.irAEによる心毒性が知られているが,担癌患者におけるICIによる高血圧発症リスクについては十分に検証されていない.

【方法】PubMed, EMBASE, Cochrane Library, and Web of Science Core Collectionを用いてシステマティックレビューを行った.Phase III以上のランダム化比較試験 (RCT) のみを抽出し,ICIの使用と高血圧リスクとの関連性について検証した.高血圧は,Common Terminology Criteria for Adverse Eventsに基づき分類し,grade I-Vとgrade III-Vの高血圧リスクに関するオッズ比を,random-effects modelを用いてメタ解析し算出した.

【結果】32のRCT (n=19810の担癌患者) が含まれていた.フォローアップ期間の中央値は36か月で,ICI群における中央生存期間は15か月であった.メタ解析の結果,ICI導入と高血圧リスクとの間に有意な関連性は認められなかった (grade I-V: オッズ比, 1.12 [95% 信頼区間(CI), 0.96–1.30]; grade III-V: オッズ比, 0.95 [95% CI, 0.78–1.16]).加えて,様々な抗癌剤とのICIの併用治療の高血圧リスクについても検証したが,高血圧との関連性が知られている抗VEGF (vascular endothelial growth factor) 抗体も含む他剤とのICI併用も高血圧リスクの増大とは関連していなかった.

【結語】ICI導入は,他の抗癌剤の併用の有無に関わらず,担癌患者における高血圧リスクの増大とは関連しなかった.

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